-夏の食材
春のメバルに梅雨のソイ。夏のコチにキス、スズキ、一年を通してみればフナベタ、ヒラメにバイ貝、イカ各種。 新潟の寿司は白身が自慢だ。いやなに、白い魚介にこだわってにぎっているわけではない。日本海という巨大ないけす、ここから揚がった新鮮な季節の魚を使ったら、自然、白身が多くなったという次第である。「夏といえばキス、スズキ。ただし実のところ、両方とも一年を通して穫れる魚で、脂がのるのは秋から冬にかけて。あえて夏に食すのは、油がぬけてあっさりしているからでしょう」とは、粋をにぎる丸伊の横山範夫さん。
そして新潟の海がこの夏の白身にさらなるうまみを加えていた。というのも日本海は日本海溝という深い深い溝を持つ。白身魚はだいたいにして海の底に棲む魚。深いところほど温度は低いゆえ身が引き締まり、あっさりとした味わいをうむ、というわけだ。想像してみてほしい。だらりとした白身の味を。あまり食指がそそられないだろう。コリコリとした歯ごたえ、そこから広がる凝縮されたうまみ。おいしい白身は、新潟でこそ堪能できるのだ。
ほかにも一年を通して味わえるイカ。冬はヤリイカ、春はスミイカ(アオリ)、秋はアオリイカだが、夏はマイカ。甘みを味わうならこれだ。コチの粘りのある舌ざわりと噛みしめるほどの甘みも夏ならでは。ヒラメに匹敵する小魚のフナベタも春よし秋よし、夏もよし。一方、ぎらりと脂を味わいたいなら、白身ではないがアジに尽きるだろう。横山さんも新潟の夏の寿司はアジ、と言い切る。「身が締まりつつ脂がのっている。新潟のアジは格別」と締めてくれたと思いきや、いやいや、岩ガキの豊潤なミルクも捨てがたい、とつけ加えた。 白き銀シャリに白き魚の白づくし。なんと目に涼やかなことか。きりりと冷えた地元の吟醸酒を片手に、あっさりうまい白にぎりを味わおう。ともに淡麗にしてうまき、新潟の味の横綱だ。