-秋の食材
(港すし)
新潟を代表する駅弁として親しまれている「鮭の押し寿司」の発祥は定かではない。しかし40年ほど前に生まれた、新潟市内の老舗寿司店の押し寿司を懐かしむ声が、いまだに聞かれる。
それは「鮭の親子すし』。昭和8年創業の港すし初代、川上吉助さんのアイディアから生まれた。昭和33年の新潟駅開業の折り、地下の名店デパートへの出店を機に作られた。このすしには、上京する人たちに、新潟になじみの深い鮭を使ったこのすしを土産にしてほしい、という思いが込められていた。
「じいさまは研究熱心で、関西の箱寿司文化に触発されたようです」と語るのは、現在の主人、3代目の川上伸一さん。「握りはどこの店も見た目は大きく変わらない。でも、名店には”姿“を見ればそこの店だとわかる名物がある。『新潟へ行ったら港の親子すし』といわれることを目指したのでしょう」。
昭和40年代のピーク時には1日50本から100本売れたという。しかし、新幹線の開業とともに駅弁の需要が減り、平成に入ってから、この新潟名物は惜しまれながら姿を消した。
現在、港すしでは、ネタとして鮭を使うことはない。しかし、新潟の秋は「日本海の魚が元気になる」食いしん坊待望の季節。川上さんのイチオシは、佐渡のかご漁が始まる南蛮エビだ。「やっぱり南蛮は寿司で味わうのが一番。あの上品な甘みは、刺身はもちろんですが、酢飯と共に味わうことで、さらに奥深さを増します」。南蛮の握りの上に、エメラルドグリーンが美しい南蛮の子(卵)をのせた「親子にぎり」は、秋から冬に味わえる。子のぶちぶちした食感も楽しい、秋が、待ち遠しくなる一品だ。