「筍生産農家と言っても、一番大事なのは竹林の整備なんです。実は、筍は竹林を管理する中で採れる副産物のような存在と言っても過言ではないんですよ」と話すのは、小学生の頃から筍を掘ってきたという大ベテランの阿部さん。竹林は1年放っておくと人が入れないほどに密集してしまうという。「毎年、竹林のあちこちから生えてくる筍を採り、採り切れない分は伐採しています。そうやって常に手を入れて、元気な若い竹を残していかないと竹林は7年でだめになってしまうんですよ。竹林が荒れないようにするために筍を掘ってるんです(笑)」。そんな筍の旬は4月中旬から5月中旬の約1ヵ月。「シーズン中は、まず4時に起きて田んぼの様子を見に行きます。そして、5時から7時に筍を掘るんですが、多い時は朝の2時間掘っただけでも70キロくらいになるんですよ(笑)」。
その日の朝に採れた筍は、新潟市江南区にある直売所『カガヤキ農園』にて販売している。「平地で育つ筍は、山のものよりも土に埋まっている部分が多いので、その分エグミがなくて美味しいんですよ。のっぺに入れても、大きく切ってジャガイモと煮しめにするのもおいしいんです」。阿部さんの筍は大きいものでもやわらかく、エグミがなくて食べやすいと評判とか。自身の育てた筍人気を嬉しく思う反面、筍堀りや竹の伐採などの重労働が体力的にも厳しくなってきたと話す阿部さん。「昭和の頃、このあたりでは筍を売りに出している家が20軒ほどあったんだけどね。今は、家に小さな竹林を持っていても、商売としているのは4軒くらいしかないんですよ」。年々筍生産者は減る一方。長年の経験で培ってきた技術、竹林やおいしい筍をなんとか守りたいという思いから、地域の人と協力して企画した、筍堀り体験ができる『筍フェア』が今年で23回目を迎えるほか、小学校の課外授業にも協力している。「小さい頃から竹で弓や剣を作って遊んだり、竹製品を利用していたり、竹や竹林が身近だったんです。竹林整備は重労働で大変だけど、空に真っ直ぐ素直に伸びる竹が単純に好きなんですよね。だからこそ竹林を残していきたいし、竹の魅力を多くの人に伝えていきたいと思って います」。